はじめに。
現在アメリカなどでもデジタルベータカムによる映像制作が盛んに行われるようになってきています。
もちろん日本でもそれまでフィルムで撮影されていたものが、ビデオになることも事実多くあるのですが、本当の意味での映像のクオリティーにどこまで意識を持っているのかは疑問でなりません。
当然フィルム撮影とビデオ撮影ではその画質の違いに大きな隔たりがあるのは言うまでもなく、アメリカでも撮影監督たちはビデオのラチチュードの狭い世界からどうやって逃れるかに苦労しています。
このページでは、アメリカオンラインのシネマトグラファーズフォーラムでも話題になったDVW700を利用したコダック5248セットアップと、そのハイクオリティーな映像制作に関して、実際に私が撮影監督として参加した日本エアシステムのテレビコマーシャルの制作話と共にお伝えしたいと思います。
カメラの設定値に関して。
ビデオカメラがデジタル化されたことにより、それまでカメラの設定に時間の掛かったものが容易に出来るようになり、またそれらの設定値をメモリーに記憶させることが出来るようになりました。
DVW700の小さなメモリーチップを利用すればチップの数だけ違った設定を記憶させることが出来る訳で、実際アメリカのカメラ機材レンタルハウスではおよそ考えられるだけの設定されたチップを、セットで貸し出しているところもあります。
コダック5248セットアップとは.....
アメリカの撮影監督Art Adams氏が導き出したフィルムルックに近づけるためのデータで、カメラがもともと持っているファクトリープリセット値を大幅に変えるものです。
デジタルベータカムは多くのポイントでその設定値を変更できるようになっていますが、基本となるポイントは、Detail Level, Master Black, Master Gamma, RGB Flare, Matrix などに代表されます。
もちろんこれらの設定値を変更したとしても、それがそのままフィルムトーンになるというものではありません。当然、照明やレンズフィルターとの連携プレーが重要な要素として関わってきます。
実際に左のシークエンスでは、画面右側よりKino-fro蛍光灯ライトにLee 216ホワイトディフュージョンフィルターとLee 249 1/4マイナスグリーンフィルターによる色温度調整、画面左側にはバウンスシルクを利用し、カメラレンズにはソフトFXフィルターの1番と1/2番の二枚を使用しています。
Matrix R-G Matrix R-B Matrix G-R Matrix G-B Matrix B-R Matrix B-G | -64 -47 10 -48 0 -38 | Detail Level Master Black Master Gamma R Flare G Flare B Flare | -60 -4 -49 79 79 79 |
これらの事柄から、照明、レンズフィルターそしてカメラの設定をビデオのラチチュード幅いっぱいに濃度設定することにより、これまでのビデオの画質とは違った世界を作り上げることが出来ます。
実際の現場ではウェーブフォームモニターによりIREスケールの70-100パーセントに特に注意しながら撮影をしていきました。
もちろんだからと言ってフィルムのトーンと同じになると言うことではありません。あくまでもビデオではない、しかしフィルムでもない世界を作り上げるには有効な手段と思います。
また、昨今ではビデオで撮影する方がフィルム撮影よりも機動性もよく予算も削減できると言った話がありますが、私は決してそうは思いません。
今日の16ミリカメラの方がはるかにコンパクトで機動性もよく、またコダックの新しいフィルムPrimeTime640Tテレシネ専用フィルムなどはネガ濃度で10絞りものラチチュード幅を持っており、実際の撮影現場での機材の簡略化を図ることもできるのです。(現在このフィルムは製造終了になっていますが、2000年秋より日本限定のSO-663や諸外国でのVision Expression filmがこれらに相当します)
多くのプロデューサーの方々にもっと画質に対するこだわりを持ってもらえるように、私自身これからもどんどんと働きかけていきたいと思います。
代理店: | 東急エージェンシー |
制作会社: | キャット |
プロデューサー: | 小島俊 |
制作: | 増田敦子 |
監督: | 丹羽寿宏 |
撮影監督: | 坂本誠吾 |
ビデオエンジニア: | 前川達彦 |
ギャファー: | 西山嘉治 |
撮影助手: | 佐々木辰雄 鈴木研二 |
照明助手: | 澤村恒美 川内次郎 高橋達也 |
メイクスタイリスト: | 志賀きく枝 |
特機: | 島尻忠次 |