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「フィルム撮影の神髄」撮影部としての提言 第2章


「撮影部としての提言」をまとめて以来、フィルム撮影に対しての多くの誤解を解くためにも、これを紐解きたいと考えて来ました。
そして技術部だけでなく、多くの制作者にも目を通して頂きたいと思い、ここに「フィルム撮影の神髄」撮影部としての提言 第2章として記すことにしました。


最初に、「今日の映像制作のほとんどはデジタルで撮影されている。」と、世の中的にはフィルムは死んだとさえ言われています。果たして本当なのでしょうか、そして実際はどうなのか書き綴ってみることにしました。

そもそも、なぜ映像制作にデジタルが持てはやされるのでしょうか。
言わずもがな、時代の流れ、そして安くて早くて旨くて・・んっ、どこかの宣伝文句みたいですけれど・・・

実際、今や誰でもが気軽に映像(ムービー)を撮影出来る機械が簡単に手に入る時代、日本ではカメラを持ったら誰でもカメラマンという肩書きを持てる世界があります。
ところが、このカメラマンという肩書きはスチル撮影でもムービー撮影でもビデオ撮影でも、日本ではみんなカメラマンです。

このカメラマンという肩書きについて世界的に見てみると、英語圏ではスチル撮影はフォトグラファー、ムービー撮影はシネマトグラファー、ビデオ撮影はビデオグラファー、等々と言われて明らかにそれは差別化され、しかも「光で描くアーティスト」としての意味さえ持っています。

当然、誰もがこの肩書きを持てるわけではありません。

そこには映像が人に魅せる、心を伝えることが出来る技を持った職人だからこそ持てる肩書きであって、芸術家としての才能を持った人達に与えられる名誉でもあるわけです。

ちなみにアメリカの撮影監督(Director of Photography)はユニオンが定めた撮影システムにおけるポジションを表す肩書きであって、Director of Photographyは間違いなくシネマトグラファーですが、ユニオンに所属しない場合、その逆のシネマトグラファーが必ずしも全てDirector of Photographyということではありません。

昨今、テレビなどを見ていて嘆かわしいのは、ディレクターと称した人達がただ写るが故に撮影した映像が、公共電波に乗って流されています。予算が無いから、時間が無いから、取りあえず写っていればいいから、なのでしょうか。
客観的に魅せる映像創りを知らないせいか、事あることにクローズアップを多用することが何かを伝えること、と勘違いしているとしか思えない映像で氾濫しています。
もちろんこのレベルをすべて否定するつもりはありません。YouTube等による素人ビデオの世界は確かに面白かったりするのですから。

でもこればっかりだったとしたら、飽きてきませんか。
本当に人を魅了するような素晴らしい映像は、然るべき時間をかけ、計算され尽くして作られています。
もちろんここには予算も大きく関係しますが、低予算であっても人を魅了する映像は作ることができます。

実はこの点に於いては、フィルム撮影でもデジタル撮影でも同じなのです。

ただし、フィルム撮影の知識を持ってデジタル撮影することは出来ても、その逆は全く不可能に近いと言っていいでしょう。
そしてここに技術的なレベルの差が生まれてくるのです。

フィルム撮影は確かにそれをモノにするためには、時間も経験も必要とします。つまり誰でもが簡単には使いこなせるモノではありません。だからこそ職人の技が生きてくるのです。
デジタル撮影は一見手短で誰でも写せることから、それで撮影したと勘違いする俳がいるのも事実です。

しかしながらデジタル撮影でも人を魅了させる映像を作ることはもちろん出来るわけで、でもそこには職人の技を持った、つまりフィルム撮影の技を応用した方が、より合理的な映像創りが出来ると私は考えています。

さらには本当にデジタル撮影で魅せる映像を創ろうとすると、必然的に手間も時間もコストも掛かってきます。
フィルム撮影は高く付くというのは、それまでのスタンダードだったフィルム撮影に対して、その後の価格の安いカメラでも動画が撮影出来るようになったことによる比較でしかありません。
逆に言えば、デジタル撮影であれやこれやと技を使い始めると、遙かにフィルム撮影よりもコスト高になってしまうのです。

こんな風に書くと、きっとデジタルの世界からクレームが来そうですが、ただひとつ言えるのは、毎日のように新しい規格が出てくるデジタルは、たとえば映像圧縮方法ひとつとっても確立された方法、定まった方法がありません。
ワークフローにいたっては多岐にわたりますが、アメリカの撮影監督協会はこれらの問題に対してACESという総合的に判断できる規格を考えました。しかしながらこれも完全に業界のスタンダードになったわけではありません。

フィルム撮影は100年の歴史の中で培われてきた技があり、基本的なワークフローも完全な確立したモノとして存在しています。

たとえばフィルムカメラでは状況に合わせてスタジオ撮影タイプ、手持ち撮影タイプとメーカーの違うカメラ機材を使い分けたとしても、フィルムが同じならばその映像に違いはありません。

それに比べた場合、デジタルカメラはそれぞれが独立した映像のキャラクターを持っているため、カメラメーカーが違えば画質も違ってきます。
ハイエンドカメラで高価なALEXAは老舗のフィルムカメラメーカーが作っただけのことがあり、使いこなすことが出来ればびっくりするほどのフィルムの質感を再現することが出来ますが、これと同じ質感を他のカメラで再現するのは至難の業です。

世界で活躍する撮影監督達は実際にはフィルムとデジタルを使い分け、使いこなし、映像を創り上げています。
優秀な撮影監督達のほとんどはフィルム撮影のノウハウをうまくデジタルに利用して撮影に望んでいます。

また最近フィルム撮影された映画を並べると、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」「グランド・ブタペスト・ホテル」「フライト・ゲーム」「舞妓はレディー」「アメイジング・スパイダーマン2」「トランセンデンス」、そして「ルーシー」はデジタル撮影以外にもIMAXによるフィルム撮影も行われていたり、これから公開される「インターステラー」「スターウォーズ」もフィルムで撮影されています。また「007・ジェームズボンド」は12月からフィルムで撮影が始まると伝えられています。
少し前ですが、「ローンレンジャー」は昼間のシーンはフィルム撮影、夜間のシーンはデジタル撮影と使い分けして撮影が行われました。

これらの数々を見てもわかるように、その物語や表現方法によって媒体であるフィルムであるかデジタルであるかを選ぶのです。

また、フィルム撮影をするためには必ず露出計が必要になってきますが、この露出計によって映像を数値的に置き換える作業は、客観的にその映像を確認するためのとても大事な道具です。
ところがデジタル撮影の現場においてフィルム撮影の経験が無かったら、まず間違いなく露出計は使われていないのではないでしょうか。

もう露出計など必要ないという考えすらあるようで、現場で持っていても使わないアシスタントもいるとか。
これにより、露出計を正しく扱うことが出来ないアシスタントが多く生まれているのも事実です。

実はデジタル撮影において露出計に変わる道具としての波形モニターがありますが、これを使って光のバランスを確認し数値化しながら撮影業務を遂行するのははるかに難しく困難でわかりにくく、ほぼ出来ません。いえ、私はこれは露出計を使った方がはるかに簡単であると言いたいのです。

また、スチル撮影と違ってムービーは時間の流れが常に付いてきます。そのワンショットだけが美しくても、それに続くショットやシーン全体の映像的な繋がりがないと観客は混乱します。

光のバランスとその映像的な継続は撮影監督にとって、とても重要な事柄であるのは言うまでもなく、だからこそ映像を数値化する技を持って時間の流れを作り出すわけで、ここにフィルム撮影もデジタル撮影もその違いはありません。

今ここで、正しい映像制作が出来るような、その環境とノウハウを正しく伝えていくことがいかに大事であり重要であるか、この事柄を重要視していきたいと私は考えています。

フィルム撮影を手放してはいけません。この技を手に入れる事こそがデジタル撮影を使いこなすもっとも確実な方法だと考えるからです。


撮影監督 坂本誠吾JSC
2014年9月21日

注釈:この記事は上記日時に私のFacebook「ノート」に記載したものです。
http://www.facebook.com/seigosakamoto




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